気候変動への取り組み

気候変動に対する当社及び三井物産プライベート投資法人の認識

2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議において採択されたパリ協定は、先進国、途上国の区別なく、全ての締約国が温室効果ガス排出(GHG排出)削減等の気候変動の取組みに参加する枠組みであり、同協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命前の 2℃(努力目標 1.5℃)未満に抑え、21世紀後半には人為的なGHG排出量と吸収による除去量との均衡を達成するという共通の長期目標が掲げられ、また全締約国を対象に削減目標の策定、提出が義務付けられています。これを受けて、多くの国や地域、産業界において、GHG排出削減のための取り組みや規制が強化される傾向が見られます。今後も、GHG排出削減に向け、新たな枠組みの設定や排出規制の更なる強化など、社会経済の脱炭素化への移行が予期されます。
「IPCC第6次評価報告書(※)」において示されるように、20世紀後半以降の気候変動の進行は科学的事実であり、気候変動の進行により、台風・豪雨の発生・激甚化等の自然災害や、世界的な海面上昇のリスクが実際に増加しています。
三井物産リアルティ・マネジメント(以下、「当社」)、及び当社が資産運用を受託する投資法人(三井物産プライベート投資法人、以下「本投資法人」)では、気候変動の進行は自然環境と社会構造に劇的な変化をもたらし、当社の事業活動にも密接に関係する重要な(マテリアルな)課題であり、気候変動がもたらすリスク・機会について特定・評価・管理を行い、事業のレジリエンスを高めることは、当社及び本投資法人が持続可能かつ安定的な収益を長期的に確保するために必要不可欠な事項であると認識しております。

(注) IPCC第6次評価報告書:国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による2023年公表の報告書

TCFD賛同表明

当社は、気候関連課題に関する情報開示を推進するため、2023年3月、金融安定理事会により設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(略称TCFD)提言への賛同を表明しました。TCFDは企業に対し「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」について把握、開示を行うことを推奨する提言を公表しています。当社及び本投資法人は我々のマテリアリティに「気候変動への対応」を特定し、同提言に沿った、本投資法人のビジネスに関わる気候関連リスク・機会の評価や管理と、気候関連情報のステークホルダーへの開示を推進しています。

TCFD

ガバナンス

当社ではサステナビリティ推進会議(議長:執行責任者、最終決定権限者:代表取締役社長)が中心となり、気候変動への対応を含むサステナビリティに関する取組みを推進しています。サステナビリティ推進会議は、代表取締役社長、執行責任者、リート部長、ファンド部長、データセンター事業部長、ファンド運用部長、及びコンプライアンス・オフィサーなどのオブザーバーで構成されます。気候変動による影響の特定・評価、リスクと機会の管理、適応と緩和に係る取り組みの進捗状況、指標と目標の設定等の事項について、サステナビリティ推進会議での審議・検討を経た後、当社社内規程に則り当社取締役会に対して報告等が行われます。このようなプロセスを通して、気候変動関連の取組みに対する管理・監督が行われます。

戦略

本投資法人が保有する全物件を対象としております。

参照した外部シナリオ

シナリオについては、IEA(国際エネルギー機関)及びIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が作成した将来の気温上昇シナリオを情報源としてリスク分析を行いました。

1.5℃シナリオ 4℃シナリオ
移行リスク IEA NZE2050 IEA STEPS
物理的リスク IPCC SSP1-1.9 IPCC SSP5-8.5

各シナリオにおいて想定される世界像

各シナリオでは以下のような世界観を想定しています。

1.5℃シナリオ
世界的なネットゼロの達成に向け、脱炭素のための社会政策・排出規制や技術投資等が現在以上に進んでいく世界観。(相対的に物理的リスクが低く、移行リスクは高いシナリオ)

4℃シナリオ
十分な気候変動緩和対策が実現せず、GHG排出が増大し続け、気象災害による物理的リスクが大きく増大する世界観。(相対的に物理的リスクが高く、移行リスクは低いシナリオ)

各シナリオにおいて想定される世界像

リスク及び機会の特定と対応策

当社は、シナリオ分析を踏まえてリスクと機会の特定とそれらの事業への影響、対応策を以下のように評価しました。

不動産運用における関連 当ファンドへの財務的な影響 時間軸 リスク・機会に対する対応策 財務的影響
4℃
シナリオ
2/1.5℃
シナリオ
中期 長期 中期 長期
移行リスク 政策と法 炭素税の導入やGHG排出規制の強化
省エネ基準の強化
物件のGHG排出量に対する税負担が増加
エネルギー効率向上のための改修費用の負担増や場合によっては罰金が課される
中期
  • 設定したGHG削減目標・エネルギー消費量削減目標の進捗状況の把握
  • 保有物件における省エネ改修の推進
  • テナント等への省エネ啓発活動
  • より高い環境性能を有する物件への投資・入れ替え
建物の認証等による表示制度の拡充や義務化 認証等の費用負担増 中期
  • 設定した環境認証取得目標の進捗状況の把握及び開示
  • 環境認証の取得推進
技術 再エネ・省エネ技術の進化・普及 新技術導入の費用が増加 中期
  • 再エネ電力
  • 省エネ設備等の計画的な導入
市場 不動産鑑定への環境パフォーマンス等の基準の導入 環境負荷の高い物件の資産価値の低下 中期
  • 不動産鑑定評価制度の動向に係る情報収集
  • 保有物件における省エネ改修の推進
光熱費(外部調達の再エネ含む)の上昇 事業経費の増加 短期
  • 保有物件における省エネ改修工事実施
  • 建物屋上への太陽光発電設備設置検討
テナント・入居者の需要変化 新規テナント・入居者獲得が困難、リテンションが低下することによる物件稼働率の低下、賃料収入の減少 短期
  • 環境性能・レジリエンスを考慮した物件であることをテナント等に周知
  • テナント満足度調査等を定期的に実施し、テナントのニーズの把握
評判 ブランド価値の低下 投資家からの投資機会・金額の減少 短期
  • 気候変動への取組のさらなる強化、継続的な情報開示
物理的リスク 急性 台風・集中豪雨による浸水被害の増加
海面上昇による浸水被害の増加
修繕費・保険料の増加、営業機会の逸失や、影響長期化の場合の稼働率の低下 短期
  • 物件運用時の気候変動関連の定期的なリスク評価の実施
  • 災害リスクに応じた対策工事の実施や設備の導入
  • BCP計画策定や防災訓練実施
  • 新規投資検討時のデューデリジェンスにおける浸水リスク等の調査と状況の把握
  • 適切な火災損害保険付保
慢性 大規模改修(嵩上げ)費用の発生 長期
空調需要の増加 猛暑日や極寒日など極端気候の増加による空調の運転・メンテナンス・修繕費用の増加 短期
  • 省エネ性能の高い空調設備の導入
機会 エネルギー源 再エネの導入 外部調達する光熱費の削減 短期
  • 太陽光発電設備の設置に適した構造を有する物件への投資
  • テナントとのエンゲージメント
  • テナントによる、敷地内で発電した電力の使用
市場 高い環境・防災性能を有する物件への需要増加 賃料引き上げ、新たなテナント・入居者誘致による収入増加 中期
  • グリーンビルディング認証等の取得
  • テナント満足度調査等を定期的に実施し、テナントのニーズの把握
  • 既存物件について防災対策工事を実施
投資家層の拡大 環境問題を重視する投資家への対応・訴求による資金調達量の増加、資金調達コストの低下 短期
  • 気候変動の取組についての積極的な説明・開示の継続
銀行の融資判断への気候配慮の組み込み 資金調達コストの抑制 短期
  • 気候変動への取組についての積極的な説明・開示の継続
  • グリーンローン等の活用
時間軸: 中期2030年迄、長期2050年迄の期間を前提

リスク管理

当社が気候変動関連のリスクを管理するプロセスは以下の通りです。

① リスクと機会を特定、評価するプロセス

執行責任者は、年に1度、当社及び本投資法人に係る気候関連のリスクの特定、評価のために、気候関連ワーキンググループを構成します。ワーキンググループは、サステナビリティ推進会議の事務局を中心とするメンバーで構成され、移行リスク・物理的リスク・機会の有無について特定を行います。
リスクの特定においては、可能な範囲で、リスクの時間軸(顕在化の時期・期間)、確信度(リスク顕在化の可能性)及び影響度(本投資法人の財務的影響度)を各リスク、シナリオごとに評価するよう試みます。リスクの特定の過程において、事業上の機会となりうるテーマ、要素が特定された場合は、リスクとは別に記録し、その実現性等について検討します。
執行責任者は、定期的にサステナビリティ推進会議に対して、ワーキングループによるリスクの特定の進捗及び結果を報告します。ワーキンググループにより特定された気候関連リスクについて、検討結果等を基に、優先して対応すべき気候関連リスクについて審議し、リスク管理対応の優先順位付けを行います。

② リスクを管理するプロセス

最終決定権限者は、サステナビリティ推進会議で審議された、優先順位の高い気候関連のリスク及び機会について、対応担当部署または担当者を指定し、その対策案の策定を指示します。対策案は、サステナビリティ推進会議において審議の上、実行されるものとします。

指標と目標

本投資法人はリスクと機会を管理、モニタリングするために重要な指標(KPI)と目標を設定しています。設定した指標と目標及びそれらの実績は以下の通りです。

<本投資法人ポートフォリオの環境認証取得>

  • 底地物件を除く保有物件の環境認証取得割合(延床面積ベース)を2025年度までに50%まで向上させ、その水準維持を目指す

<GHG排出量削減目標>

  • 本投資法人ポートフォリオのGHG排出量原単位(Scope1+Scope2(マーケット基準))を、基準年度から目標年度までに以下の通り削減させることを目指す

2030年度までに6%削減(基準年:2020年)

長期目標の目標年は2030年(2030年2月~2031年1月)、基準年は2020年(2020年2月~2021年1月)、目標の対象期間の初年度は2024年(2024年2月~2025年1月)としています。

<GHG排出量実績>

単位 2020年(基準年)
GHG排出量 t-CO2 9,758
Scope1 t-CO2 23
Scope2(マーケット基準) t-CO2 2,449
Scope3(カテゴリー13) t-CO2 7,284
原単位(Scope1+Scope2) t-CO2/㎡ 0.0160
原単位(Scope1+Scope2+Scope3) t-CO2/㎡ 0.0629
(注) 本投資法人が把握できる範囲の数値を記載しています。また、原単位は、本投資法人の持分割合による調整後の延床面積に、各年度の平均稼働率(月末時点の稼働率を単純平均した数値)を乗じた面積を用いて算出しています。